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東京高等裁判所 平成元年(く)21号 決定 1989年2月21日

主文

原決定を取り消す。

本件保釈請求を却下する。

理由

本件抗告の趣意は、浦和地方検察庁検察官が提出した抗告及び裁判の執行停止申立書に記載されたとおりであるから、これを引用する。

所論は、要するに、被告人について、裁量による保釈を許すのは相当でないから、被告人の保釈を許可した原決定は取り消されるべきである、というのである。

所論にかんがみ、関係記録を調査して検討するに、被告人は、A、B、Cと共謀の上、埼玉県和光市所在の陸上自衛隊朝霞駐とん地内に侵入し、包丁等の凶器を用いて警衛勤務中の陸上自衛官の反抗を抑圧し、同駐とん地内の弾薬庫等から銃器、弾薬を強取しようと企て、昭和四六年八月二一日午後八時三〇分ころ、右のB及びCにおいて、陸上自衛官を装って同駐とん地北側正門から同駐とん地司令の看守にかかる同駐とん地内に不法に侵入し、同日午後八時四五分ころ、同駐とん地七三四号隊舎東側路上において、おりから動哨警衛の職務に従事中の陸上自衛官陸士長M(当時二一年)に出会うや、同人からその所携のライフル銃を強取すべく、同人に対し、Bにおいて、腹部を手拳で強打し、組みついて膝蹴りを加え、Cにおいて、所携の柳刃包丁で右胸部等を数回突き刺す等の暴行を加え、右Mの前記職務の執行を妨害したものの、前記ライフル銃を発見することができないまま逃走したため、銃器等を強取する目的を遂げなかったが、前記暴行により、同人をして間もなく同所付近において、右胸部刺創に基づく胸腔内出血等により死亡するに至らしめたものである、との公訴事実について、原裁判所の審理をうけ、昭和五七年八月一一日以降、同事実で勾留されているものであるが、原裁判所は、弁護人の保釈請求に基づき、平成元年二月八日保証金額を一〇〇〇万円と定めるなどして、被告人の保釈を許可する決定をしたことが明らかである。

ところで、被告人についての勾留事実は、強盗致死罪等にかかるものであるところ、同罪の法定刑に照らし、本件は権利保釈の除外事由である刑訴法八九条一号に該当することが明らかであるから、原裁判所は、同法八九条四号に該当する事由の存否を含め、諸般の事情を併せ考慮した結果、裁量により被告人の保釈を許可したものと考えられる。

そこで、右の裁量の当否について検討するに、本件勾留事実は、先にみたとおり、強盗致死、建造物侵入、公務執行妨害という重大な事案であるが、被告人は、捜査、公判を通じ一貫してAらとの共謀を徹底的に争っており、本件の争点は、いずれも実行行為者ではない被告人とAとの間の謀議の成否に集約されているのであって、その立証は、専ら共犯者とされているAの供述ないしは謀議の存在を側面から裏付けるとされる他の事件関係者らの供述に依拠していることが明らかである。しかも、Aが捜査官に対して供述し、あるいは別件や本件の公判で供述するところをみると、被告人の本件犯行への関与の度合い、謀議と目されている両名間の意思連絡の状況とその内容等については、微妙な変遷があり、Aと被告人の言い分が対立している点も少なくないこと、さらにAは、現在では服役を終え、社会人として生活しているが、依然として、本件にかかわったことによる影響を脱しきれない立場に置かれていること、本件事案の罪質、態様、事件関係者に対する被告人の影響力等の諸点に徴すると、すでに弁論が終結し、判決宣告期日が来る平成元年三月二日に指定されているという公判審理の現段階においても、被告人を保釈すれば、なお被告人がAら事件関係者らに働き掛けたりするなどして、罪証を隠滅する虞れがないとはいえない。その他、被告人が事件後一〇年余の長期間にわたり捜査の手を逃れ潜伏していたことなどの諸般の事情を併せ考慮すると、一〇〇〇万円という比較的多額の保証金を定め、事件関係者との面接、接触を禁止する等の条件を附したからといって、必ずしも裁量保釈を相当とする状況がととのったとは考えられず、弁護人が指摘する被告人の健康状態等の点を含め、更に調査してみても、裁量により保釈を許さなければならない特段の事情があるとは認め難く、また、公判審理の経過に照らし、勾留が不当に長期に及んでいるとも認められないから、被告人に対し保釈を許した原決定は裁量権の行使を誤ったものといわざるをえない。論旨は理由がある。

よって、本件抗告は理由があるから、刑訴法四二六条二項により、原決定を取り消したうえ、本件保釈請求を却下することとして、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 柳瀨隆次 裁判官 横田安弘 井上廣道)

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